1)Update on the relationship between magnesium and exercise
マグネシウムと運動の関係に関する最新情報
F H Nielsen 1 , H C Lukaski Source:Magnesium research 2006 v.19 no.3 pp. 180
概要
マグネシウムは、酸素摂取、エネルギー生成、電解質バランスなど、筋肉機能に影響を与える多くのプロセスに関与しています。このように、マグネシウムの状態と運動との関係は、重要な研究の注目を集めています。この研究は、運動が代謝の必要性に対応するために体内でマグネシウムの再分布を誘発することを示しています。わずかなマグネシウム欠乏が運動パフォーマンスを損ない、激しい運動の悪影響(例えば、酸化ストレス)を増幅するという証拠があります。激しい運動は明らかに尿と汗の損失を増加させ、マグネシウムの必要量を10〜20%増加させる可能性があります。食事調査と最近の人体実験に基づくと、マグネシウムの摂取量が男性で260 mg /日未満、女性アスリートで220 mg /日未満の場合、マグネシウムが不足している可能性があります。最近の調査では、かなりの数の個人が日常的にマグネシウムを摂取していますが、それでもまだマグネシウムが不十分になる可能性があることも示されています。体重管理が必要なスポーツ(レスリング、体操など)に参加しているアスリートは、マグネシウムの状態が不十分な場合に特に脆弱であるようです。マグネシウムの補給またはマグネシウムの食事摂取量の増加は、マグネシウム欠乏症の人の運動パフォーマンスに有益な効果をもたらします。適切なマグネシウム状態の身体的に活動的な個人へのマグネシウム補給は、身体能力を高めることが示されていません。十分に管理された人体実験からの長期バランスデータに基づく活動にリンクされたRNIまたはRDAは、身体的に活動的な個人が、パフォーマンスに影響を与える可能性がある、または健康への悪影響のリスクを高める可能性のあるマグネシウム摂取量があるかどうかを確認できるように決定する必要があります(例:免疫抑制、酸化的損傷、不整脈)。
2)The effect of magnesium supplementation on primary insomnia in elderly: a double blind placebo controlled clinical trial.
Journal of Res. medical sciences. 2012;17:1161-1169
高齢者の原発性不眠症に対するマグネシウム補給の効果:二重盲検プラセボ対照臨床試験
不眠症や慢性疲労をはじめとする多くの症状や病気にマグネシウムの栄養素不足は関係していることは以前から伝えられていますが、今回の調査報告では不眠症に限って調査が進められました。
日々のマグネシウムの平均摂取量が194mg程度の人びとの中から、中度の不眠症と診断された平均年齢65歳の46人の人をランダムに抽出し、8週間にわたって、マグネシウムのサプリメント250mgを1日2回と、偽粒であるプラセボ斑にの2つのグループに分けて摂取前後の不眠症数値を用いた数値の変化が観測されました。
8週間後の計測ではマグネシウムを摂取していたグループにおいて、摂取しなかったグループと比較した場合に、平均して14.4%程度の不眠症数値の中央値に改善が見られたと報告されています。
今回の調査報告について、世界的に著名な医学博士のアランゲービー博士曰く、マグネシウムは不眠症や慢性疲労、うつ病などに共通して欠乏していることが多い栄養素の1つとしてコメントをした上で、現在の国のマグネシウム推奨摂取量において、男性が420mg、女性が320mgと設定されているものの、実際には多くの人がそれらの数字を下回っており、特に若い年齢層に不足が躊躇に表れているとコメントしています。
また治療の目的で同博士の病院を訪れる患者にも多い症状として、不眠症や慢性疲労、心配性や不安症とうつ症状の人にはマグネシウムのサプリメントを1日400mg程度、摂取してもらうようにすることで、改善が見られる経験をしてきたと追記しています。
マグネシウムを含む食べ物:
マグネシウムを含んだ食べ物例としては、緑色の葉もの野菜、ナッツ類、種子類、魚、肉、乳製品、未生成穀物などが挙げられます。
ただし小麦粉や穀物は精成時に80%程度も失われることに加えて、水に入れて野菜を沸騰させるだけでも50~75%程度のマグネシウムが失われてしまうとのことでしたので、野菜では生に近い状態や沸騰した水分ごと食べるようすることがおすすめです。
マグネシウムは他のミネラルやビタミンと相互作用があることからも、マグネシウムだけに焦点を当てるよりも、食べたりサプリメントなどで栄養素を補う場合においても、もう少し広い範囲で考えることもおすすめです。
3) Report on Absorption of magnesium sulfate(Epsom salts)across the skin
バーミンガム大学バイオサイエンススクールRH Waring博士
硫酸マグネシウム(エプソム塩)の皮膚への吸収に関する報告
被験者 |
19名(男性10女性9) |
年齢 |
24〜64歳 |
浴槽内の硫酸マグネシウム濃度 |
600g/60リットルを基本 |
お湯の温度 |
50〜55℃ |
入浴時間 |
12分間 |
期間 |
7日間 |
採血 |
初日、2日目と最終7日目の入浴後2時間後 |
採尿 |
最終7日目の入浴後24時間以内 |
硫酸マグネシウム入浴による血中マグネシウム濃度のテストを行なった
【実験結果】
19人中16人で変化が確認出来た
血中マグネシウム濃度
1日目 104.68±20.76 ppm/ml
2日目 114.08±25.83ppm/ml
7日目 140.98±17.00ppm/ml
尿中マグネシウム濃度
実験前 94.81±44.26ppm/ml
7日目 198.93±97.52ppm/ml
男女間の差 実験前の血中値に差がみられたが、実験後の差は認められなかった(男女間の差は無かった)
【考察】
浴槽内のマグネシウムは皮膚から吸収され腎臓を通り尿として排出されていることが確認出来た。
おそらく血中のマグネシウム濃度が充分であたため、吸収されたマグネシウムのほどんどが尿とともに排出されたと思われる。
皮膚から吸収された分のほとんどは24時間以内に排出されたと推察できる。
被験者によっては最大で400g追加して入浴したものもいたが、今回の実験では被験者から副作用の症状は確認されなかった。
尿タンパク測定結果からも異常はなく、腎臓へのダメージも認めらなかった。
充分にわかってはいないが、500〜600g/15ガロン(60ℓ)程度で週に2〜3回入浴するのが最も効果的でないかと考える。
その他の意見として60歳の被験者から「リウマチ性の痛みが消えた」との意見もあった。
【結論】
硫酸マグネシウムの風呂に浸かることが、体内のマグネシウム濃度を上昇させる簡単な方法であることが確認出来た。
4)2017年、ドイツ・Akademie für Mikronährstoffmedizin、IPEV Institute for Prevention and Nutrition、St. Anna-Hospitalの研究者らが経皮吸収マグネシウムについての総説を発表
(Nutrients誌. 2017 Aug)
概要
レビューでは、経皮マグネシウムアプリケーションに関する現在の文献と根拠に基づくデータを評価し、経皮マグネシウムの吸収が科学的にサポートされていないことを示しています。マグネシウムの重要性とマグネシウム補給のプラスの効果は、マグネシウム欠乏症、例えば心血管疾患や真性糖尿病で広く文書化されています。マグネシウム欠乏症の治療のための経口マグネシウム補給の有効性が詳細に研究されています。ただし、実績のある十分に立証された経口マグネシウム補給は、経皮的用途(マグネシウム含有スプレー、マグネシウムフレーク、マグネシウム塩浴など)に対する集中的なマーケティングを通じて、近年疑問視されています。専門家、素人、インターネットの両方で、経皮マグネシウムの経口適用に対する有効性と優位性を主張する記事が増えています。経口投与と比較してマグネシウムの経皮吸収は、消化管を迂回するため、吸収がよく副作用が少ないため、より効果的であると主張されています。
4.結論
数多くの研究が、経口治療または予防マグネシウム補給の有効性を実証しています。したがって、適切なマグネシウムの供給は、健康な妊娠と授乳だけでなく、糖尿病や前糖尿病の患者にとっても重要です。マグネシウム補給は、利尿薬やプロトンポンプ阻害剤などの薬を服用する場合にも役立ちます。現在の研究に基づいて、科学的にまだ証明されていない形態のマグネシウム適用である経皮マグネシウムの吸収によってマグネシウムの治療が成功しない場合、それは非常に憂慮すべきことです。将来の研究では、経皮投与がマグネシウム状態の改善に大きく寄与するかどうかを調査するために、長期間投与されたマグネシウムクリームの塗布など、より高濃度のヒト被験者に焦点を当てることをお勧めします。マグネシウムは真皮の下のリンパ系に入り、循環系に入り、消化管を介して調節を迂回し、これにより血清マグネシウムを増加させる可能性があります[23、24、25]。ただし、経皮マグネシウムの使用はまだ推奨できません。
5)その他
① 「マグネシウムに富む水での入浴」は、乾燥したアトピー性皮膚の皮膚バリアに有益な効果があることが示されています。
・van Smeden J, et al. The importance of free fatty acid chain length for the skin barrier function in atopic eczema patients. Exp Dermatol 2014; 23: 45-52.
② マグネシウムに富む死海塩による局所治療は、乾性およびそう痒性皮膚病において有益な効果を示しました。
・Proksch E, et al. Skin barrier function, epidermal proliferation and differentiation in eczema. J Dermatol Sci 2006; 43: 159–169.
③マグネシウムは、セラミドの合成、表皮の増殖と分化の調節に関与しています。
・Clarke CJ, et al. The neutral sphingomyelinase family: identifying biochemical connections. Advn Enzyme Reg 2011; 51: 51-58. ・Okazaki T, et al. Characteristics and partial purification of a novel cytosolic, magnesium-independent, neutral sphingomyelinase activated in the early signal transduction of 1 alpha,25-dihydroxyvitamin D3-induced HL-60 cell differentiation. J Biol Chem 1994; 269: 4070-4077.
④セラミド産生の主要なメディエーターとして、中性スフィンゴミエリナーゼ(N-SMase)がありますが、この酵素の活性化にはマグネシウムが必要です。
・Clarke CJ, Wu BX, Hannun YA. The neutral sphingomyelinase family: identifying biochemical connections. Advn Enzyme Reg 2011; 51: 51–58.
⑤強力なステロイド塗布による治療が天然保湿因子(Natural moisturizing factors; NMF)レベルの低下につながり、長期的には、皮膚の水分補給の低下、抗菌防御の低下、皮膚の炎症状態の悪化につながるが示されています。
・McAleer MA, et al. The multifunctional role of filaggrin in allergic skin disease. J Allergy Clin Immunol 2013; 131: 280–291. ・Danby SG, et al. The effect of tacrolimus compared with betamethasone valerate on the skin barrier in volunteers with quiescent atopic dermatitis. Br J Dermatol 2014; 170: 914–921.
⑥軽度から中等度のアトピー性皮膚炎の治療において、セラミド&マグネシウムのクリームは、ステロイド剤よりも皮膚の水分補給と天然保湿因子レベルの維持を改善するのに効果的です。
・Koppes, S. A., et al. Efficacy of a cream containing ceramides and magnesium in the treatment of mild to moderate atopic dermatitis: a randomized, double-blind, emollient-and hydrocortisone-controlled trial. Acta dermato-venereologica, 2016; 96(7): 948-953.
⑦Ⅱ型糖尿病患者に対するマグネシウムの研究(9件:370名)で解析されています。マグネシウムサプリメントを1日360mg 、4週間~16週間にわたり摂取させたところ、空腹時血糖値の改善と血中HDLコレステロールの増加がみられたことから、マグネシウムに糖尿病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16978367/
⑧高血圧患者に対するマグネシウムの研究(20件、1220名)において、マグネシウムを1日あたり10~40mmol 、3~24週間摂取したところ、収縮期血圧、拡張期血圧の低下がみられたことから、マグネシウムに高血圧予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12160191/
⑧肥満患者とⅡ型糖尿病患者52名にマグネシウム化合物を6ヶ月間摂取させたところ、空腹時血糖値とインスリン感受性の改善が見られたことから、マグネシウムには抗糖尿病効果が期待されています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21205110
⑨テコンドー成人選手30名にマグネシウムを1日10mg/kg 、4週間摂取させたところ、運動の有無にかかわらず、赤血球と白血球が増加し、ヘモグロビンも増加しました。赤血球とヘモグロビンの増加効果により、マグネシウムの運動補助機能が示唆されました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17625241